• リノベーション
  • リフォーム業界事情

京町家をリノベする【5】

お客様へのお引き渡し予定は、1月末。
新築でもリフォームでも、工事ではまず完工日を決定します。そこから逆算して工程を組み、よほどの事情がない限り遅れないように進めていくのが常です。

今回は施主側の事情もあり、引越し時期に余裕がありました。その猶予が、どれほどありがたかったことか。9月着工当初は年内完了も視野に入れていましたが、やはり京町家は一筋縄ではいきませんでした。想定通り、いや想定以上に時間を要しました。

幕末以前の本来の町家に、昭和期に増築が施されています。その増築部分の傷みや継ぎ接ぎ感はなかなか厄介でした。
しかも、建物自体が古く、わずかながら傾きもある。
いわゆる「揚げ前」工事をするほどではないものの、水平を取りながら壁を起こしていく作業は地道で神経を使います。理想を追えばどこまでも手を入れたくなりますが、理想と現実が折り合う地点を探し続けるのが、今回もっとも難しい仕事でした。
(※揚げ前とは、建物の傾きをジャッキで水平に戻す工事のことです)

すべてを自然素材で仕上げることも諦めざるを得ませんでした。
壁の状態が著しく悪い部分は石こうボードで新たな壁を造作し、クロス仕上げにしました。全面を漆喰や土壁にしたいところでしたが、それでも出来る限り風通しの良い京町家という方向性は見失わないようにしました。

友人に、京町家を何軒も再生している人がいます。
資産と時間を投じ、徹底的にこだわったリノベをしてきた人です。しかし、その人の場合は、趣味としてのリノベであって、一方の私たちは施主が住むための家をお預かりしている予算内でおさめなければいけないわけで、制約の中で検討を重ねなければいけません。

例えば2階部分。
近年流行の「あらわし天井」にして、梁や柱を見せる手法も頭をよぎりましたが、京町家の専門家から「住むための家なのだから、無理に吹き抜けにする必要はない」と助言を受けました。埃や寒暖差の問題もある。たしかにその通りです。

実際にこの家で暮らす施主の住み心地を無視して、イメージ先行の「映え」に走るのは本末転倒です。
もちろん、専門家の指示通り、天井は閉じることにしました。

1階は、LDKや水廻りが集中するのでスムーズな動線を確保し、現代的な間取りを心掛けました。
一方2階は、1階とほぼ同じ面積があり、6帖ほどの主寝室とあとは広々としたフリースペースとして解放感のある空間にしました。
そこで、2階は京町家らしい遊び心のある内装にしようと決めました。

フリースペースにはご家族それぞれのためのクローゼットを設けました。壁は杉板張りにして通気を確保し、扉には古建具を採用しています。
解体される古民家から障子や建具を回収し、それを再流通・再利用することが秘かに流行っています。
寝室には、筬格子(おさごうし)という、内側に取り外しができる障子が付いた建具を使用しました。

京町家では、季節によって建具を入れ替える文化があります。
夏は風を通す葦戸、冬は板戸。
そういえば、私の昔の実家でも年末になると障子を張り替え、畳を干し、大掃除をしていました。季節ごとに家を整えながら暮らしていた記憶が、今回の工事を通して思い出しました。

便利な家電もなく、何もかも手作業だった時代。それでも人々は丁寧に住まいを手入れしていた。現代の私たちは忙しいと言いながら、どれほど家と向き合っているだろうか。そんなことを考えさせられます。

わたしは10月から京町家の設計塾にも通っています。
半年で三万円という破格の受講料ですが、価値は計り知れません。京都で町家保全の最前線にいる団体だけあって、相談案件の現地調査に立ち会う機会も得ています。自分の現場と違う町家を何軒も見ることができ、町家改修の奥深さを思い知る日々です。

中京区の大きな町家、祇園祭と深く結びついた建物、商家の格式。
町家は単なる住宅ではなく、街の歴史そのものです。祇園祭の山鉾が出発する場所と町家の関係性を知ると、祭りや商いと暮らしが一体であったことが理解できます。来年は祇園祭にも参加するつもりです。

茶室を備えた町家もあります。
そこまで踏み込めば、茶の湯の知識なくして工事はできないでしょう。
足を踏み入れれば底なしの世界。けれど、その深さが面白い。

そして何より、私は京都という街に恋をしてしまいました。
もともと好きな場所でしたが、こうして半ば住むように過ごすうちに、これほど肌に合うところがあるだろうかとさえ思うようになりました。閉鎖的で、少し意地悪(?!)、けれど合理的で奥ゆかしい。大阪とまるで違う地域性。

少しだけ居場所を与えられているよそ者という立ち位置が私にとって、とても心地良いのです。
前世は京都だったのではないかと思うほどです。
霊感もスピリチュアルな能力も持ち合わせていませんが、土地や建物に対する直感だけは昔から鋭いところがあります。駅に降り立った瞬間、この場所が自分と合うかどうかが分かります。
海外で暮らした経験があるからかもしれません。

もし、こんな戯言を京都人に言ったなら、おそらく呆れられるでしょう!
彼らが真の京都人と認めるのは、最低でも5世紀ぐらいは住み継いだ人だけだからです。

とはいえ、京都は私にとって、なぜか懐かしく、とても居心地がいいところです。
京町家のリノベを通して、私は住まいのあり方だけでなく、自分自身の居場所についても考えるようになりました。この工事が終わる頃、家だけでなく、私の中の何かも少し変わっているのかもしれません。

続く

Contact

女性のイラスト

リノベ無料個別相談。
お気軽にご相談ください。

ご要望がまとまってなくても大丈夫です。
ヒアリングの中でひとつひとつ暮らしの中で感じている
不満や悩みを拾い上げていきます。

※ 営業は一切行いませんので、安心してお問い合わせください。

お電話はこちら
電話のイラスト 06-6379-5872

受付時間 10:00-17:00 (火曜日・水曜日を除く)