なぜ日本人は新築の家を買いたがるのか【5】
シリーズの続きは、住宅を「供給する側」の視点から、日本の住宅事情の裏側を掘り下げていきたいと思います。特に、大規模な住宅開発と賃貸住宅事業、そして相続対策としての住宅供給の問題点に焦点を当てていきます。
「街づくり」としての住宅開発と、その時間軸のズレ
住宅開発には、大きく2つの種類があります。一つは、鉄道会社や自治体が一体となって行う「街づくり型」の大規模開発。これは道路や公共施設も含めて新たな住宅地を整備する、長期スパンの事業です。
たとえば、関西圏の「北大阪急行線(御堂筋線延伸)」のように、1960年代に計画されながら、実際に開業にこぎつけたのは50年以上後というケースもあります。
このような長期プロジェクトは、高度経済成長期の人口増を見込んで始まったものですが、実現した今では人口減少時代。需要と供給のタイミングが大きくズレてしまい、巨額の投資回収も見通しが立ちにくい状況です。
対照的な「分譲マンション」事業のスピード感
一方、マンション開発は、1棟分の部屋が売れれば資金回収が可能な「短期勝負」のビジネス。駅近で小~中規模の土地があれば、比較的小さな事業者でも参入でき、売り切れば即座に撤退も可能。
私が以前勤めていたリフォーム会社の母体も、不動産投資を手がけており、都心にタワマンを建てていました。利益は少なくても、とにかく“売り切れること”が肝。売れ残れば即座に資金繰りが悪化する、リスクと隣り合わせの世界です。
賃貸住宅事業の難しさと参入障壁
分譲事業と異なり、賃貸住宅は「時間をかけて家賃で回収する」ビジネス。長期で安定した経営が求められますが、日本ではこの分野に参入しているのは、規模の小さい零細事業者がほとんどです。
大手事業者が参入しないのには、理由があります。
- 借り手の権利が強く、立ち退きや建て替えが難しい
- 家賃収入が安定しない
- 老朽化物件でも、借り手が住み続ければ手を入れられない
こうした法制度のバランスの悪さが、事業者側のリスクを増やし、結果として「安全に計画できる分譲住宅」に資本が集中する構図を生んでいます。
中古アパート再販ビジネスの流行
一時期、比較的状態の良い低層賃貸アパート(3〜5階建て)を丸ごと買い取ってリフォームし、分譲マンションとして販売するビジネスが流行しました。
大手不動産会社が、傷み具合に応じて中程度からフルリフォームを実施。中堅リフォーム会社と連携して短期間で改修し、販売へ。半年〜1年で資金を回収するスキームは、当時の市場環境下では有効で、多くの売上を生み出しました。
ただし、これはあくまでも物件価格が今より手頃だった時代の話。現在は不動産価格が高騰し、同じ手法では成立しにくくなっているのが実情です。
賃貸住宅=相続税対策のための建築?
さらに日本独自の問題として、賃貸住宅が「相続税対策のために建てられている」という実態があります。
日本の税制では、金融資産よりも土地・建物の評価が低く、特に賃貸にしていればさらに評価が下がります。つまり、現金で相続するよりも、土地にアパートを建ててから相続したほうが課税が少なくなるのです。
そのため、高齢の地主が、
- 空き地に急いでアパートを建てる
- 木造や軽量鉄骨など、短工期・低コストで建築
- 長期一括借り上げ(サブリース)を業者に持ちかけられて乗る
という流れが急増。実際には人口が減っているエリアにもかかわらず、不要な賃貸住宅がどんどん建てられ、空室リスクが膨らんでいくのです。
結果として生じる市場のゆがみ
こうした相続対策アパートの乱立は、以下のような深刻な弊害を生みます。
- 家賃相場が下がる
- 入居率が低下し、賃貸経営が成り立たなくなる
- 節税目的の“アマチュア大家”が市場を乱す
- 本業の賃貸事業者が淘汰される
結果として、プロの事業者が参入しづらい環境が生まれ、賃貸住宅の質も維持されにくくなります。
本当に必要だったのか、その住宅
ここまでお話ししてきたように、日本の住宅供給は長らく「持ち家偏重」かつ「節税目的による賃貸建築」が支配的でした。その背後には、政府による制度設計や税制の歪み、そしてそれを是正しなかった長年の“放置”があります。
本来であれば、市場のバランスを保つために、国が適切な介入をし、住宅供給の質と量をコントロールすべきでした。しかし実際には、分譲住宅の供給は奨励し、賃貸市場の整備は後回し。その結果が、空き家問題や、無計画なマンション乱立という現状に繋がっています。
次回からは、いよいよ「国が実際に行ってきた住宅政策」や「どんな補助制度が存在したか」について掘り下げていきます。
続く
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