リフォームの現場から見える資材不足と中東情勢
オフィスの通信工事から見えてきたこと
オフィスのネット環境が、今年に入ってから急激に悪化しました。
多くのリフォーム会社と同様、当社もクラウド型の業務管理システムを導入しているのですが、いつもならサクサク操作できるのに見積書ひとつ作成するにもフリーズしてしまい、通常なら10分で終わる作業に1時間以上かかるようになりました。
原因のひとつは、周辺で新しいビルの建設工事が相次いでいたことで通信環境に干渉していることが考えられます。加えて、神戸本社のサーバーを経由して各オフィスに接続する構成になっているため、通信遅延が重なっていたことも判明しました。会社設立当初からお付き合いしているシステムインテグレーター業者にVPN工事をお願いすることになり、立ち会うことになりました。
そこで技術担当のYさんから、「最近のイラン情勢でリフォーム工事にも影響出ていませんか?」と聞かれ、わたしは大きくうなずきました。3月頃から、取引先の商社やメーカーから「資材が品薄になる可能性がある」「特定の商品の受注をストップする」等の連絡が相次ぐようになっています。まず影響が出たのが、ユニットバスとトイレの受注停止。さらには給湯器についても、供給が難しくなるだろうという連絡が来ています。今後は半導体を使う電気系設備——エアコン、IH、EV充電設備なども厳しくなってくることが予測されています。
こうしたご時世にも、リフォームのニーズはたくさんあるのですが、資材の納期が見通せないために工程が組めず、受注を見合わせざるを得ないケースも出ています。また、リフォームは新築と比べると発注規模が小さく、多品種少量、物件ごとの納期と代替品対応が現場に合わせて調整できることもあり、新築工事よりも資材供給の優先順位がどうしても後回しになりがちです。
わたしの説明を聞いたYさんも、「実は、僕たちの業界でも大打撃を被っていて、本当に大変なんです」とおっしゃいました。情報通信分野でも、機器や設備の調達が深刻なほど困難になっているというのです。そのせいで、信じられない価格高騰にも見舞われているそうです。たとえば、1年前なら500万円で出来たサーバー工事が、今では少なくとも3000万円はかかる場合もあるそうです!しかも納期の見通しが立たないという状況になっているとのことでした。
AIは「情報産業」ではなく「電力・資源産業」
その背景として担当者が指摘したのが、生成AI需要の急拡大です。
NVIDIA、OpenAI、Meta、Microsoft、Google、Amazonなどの巨大テック企業が、AI需要をめぐってデータセンターのインフラをすさまじい勢いで獲得・拡張しているため、GPU(画像処理半導体)、メモリ、サーバー機器などが世界的に争奪状態になっています。その影響が、オフィス向けのシステムインテグレーション業にまで及んでいるというわけです。
一見、関係がないように見えるIT業界とリフォーム業界が、現状のイラン情勢を含めたグローバルな背景で、実は同じ問題に直面していることに今更ながら気づかされました。
AIを動かすためには、膨大な電力が必要です。発電所、データセンターの冷却設備、半導体工場——これらすべてがAI産業を支えるインフラです。半導体の製造工程ではヘリウムをはじめとした希少資源も欠かせません。
近年、SDGsや脱炭素が声高に叫ばれてきましたが、AIの急成長はその流れに逆行するように、石油・ガスの需要を押し上げています。AIは一見「クリーンな情報産業」に見えますが、その実態は電力と資源を大量消費する重厚な産業です。このことを念頭に置くと、世界で今起きていることの解像度が上がります。
こうした業界の動きを、個別の政治問題として見るよりも、AIを支えるエネルギーと資源をめぐる争奪戦という文脈で捉え直すと、一本の線でつながっていることが分かります。アメリカの巨大テック企業にとって、エネルギーと資源の安定確保は死活問題であり、外交・安全保障政策と表裏一体になっているのです。
2026年2月末、アメリカとイスラエルはイランへの軍事攻撃を実施しました。これにより中東情勢は一気に緊迫し、ホルムズ海峡を経由する原油・ガスの流通に甚大な影響が出ています。米国のトランプ政権はベネズエラに対しても石油輸出の遮断など強力な経済的圧力をかけ、体制転換を迫っています。そして「次はキューバだ」とトランプ大統領自身が繰り返し発言し、軍事的な選択肢も辞さない姿勢を見せています。2026年5月には、米司法省がラウル・カストロ元国家評議会議長を1996年の民間機撃墜事件に関連して起訴し、米・キューバ間の対立は一段と激化しています。
余談ですが、キューバの2016年に亡くなったフィデル・カストロ元議長は、キューバという小国の革命を成功させた近代史における巨人のひとりです。ラウルはそのフィデルの弟にあたり、兄フィデル、チェ・ゲバラらとともにキューバ革命を戦った人物です。
今リフォームを考えている方へ——早めの判断が「得」になる理由
こうして建設業界の中では、住宅リフォームは優先度の低い工事として後回しにされる時代がしばらく続くかもしれません。しかも、ホルムズ海峡の通航が安定して一時的に止まっていた資材が一気に流通し始めたら、需要集中による価格急騰が起こる可能性があります。ここ数年の物価上昇ペースを見ると、現状で1000万円の工事は、来年には1500万円〜2000万円になることも十分あり得ます。加えて、職人不足という慢性的な問題も深刻さを増しています。
もちろん、資材が入らなければ工事は進められませんので、工期が読めないことを前提としつつではありますが、今から動き始めることが金額的には有利だと言えます。リフォームを検討中の人、まだ急いでいないという人も含め、できれば早めの判断をおすすめするということです。
こんな時代だからこそ、伝統建築に活路を見出す
私自身は今、仕事の軸足を京町家などの伝統建築に向けようとしています。以前から関心を持っていたことでもありますが、今の状況と重ね合わせると、なかなかタイムリーな方向性だと感じています。
量産型の住宅建設やリフォームが、資材不足と人手不足によって身動きの取れない状態になる一方で、既存の古い建物を活かして再生すること——京町屋に限らず、大正・明治・昭和初期の建物を丁寧に直していくような仕事——は、今後むしろ需要が増えるのではないかと考えています。
AIをめぐる大きな時代の波に対して、アナログで地道な職人の手仕事が見直される——そんな原点回帰の動きが起こってくるかもしれないとも予想しています。こんな時代だからこそ、伝統建築を学び、人脈を築き、新しい価値を生み出す準備の時間だと、前向きに捉えています。先行きが読みにくい時代ですが、こんなときほど視野を広く持ちながら、足元の仕事を丁寧に積み重ねていくことが大切なのではないでしょうか。
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