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京町家をリノベする【3】

京町家のえらいお方

京町家の専門家がいよいよ、現場を見に来ました。
この人は、京都大学の工学部建築学科の関係者であり、京都で活躍する建築家や行政とも繋がっている地元の名士です。そして、ご自身も由緒ある京町家で暮らしており、町家を住居として再生し活用するためのNPO団体の理事長をされています。

そこで京町家を知らない若い建築家や職人の指導もしています。
著名な建築家でも、町家の成り立ち、伝統的な工法については知らない人が多く、近代建築の知識と経験だけでは古民家を扱うには十分とはいえません。マニュアル化されていない膨大な経験則に基づく積み重ねてきた知恵が必要なのです。京町家に住んできた人や、長く携わってきた職人の身体感覚のような知識が活きた教材となります。

かのお方は、上方の人らしい、凛とした佇まいの人でした。現場に到着され、中にご案内する際はとても緊張しました。工事前に知り合っていれば、もっと違った建設計画になっていたかも…。
致命的なミス、工事において絶対にやっていけないことなどを指摘されたらどうしよう‥と本気で心配しました。

しかし、意外にも厳しいダメ出しはなく、
「まあええんのんとちゃいますか」
という第一声。

心底、ほっとしました!
ただその後は、「ここから気をつけなあかんこと」をたっぷり教えていただくことになり、気づけば場所をかえて、そのまま時間を忘れ深夜まで一緒に酒盛り。
京都人らしい遠慮のない口調で、京都の伝統と考え方、町家について詳しく聞かせてもらいました。

ここで話を少し脱線させます。
実は、この物件が始まってから、わたしは京都に滞在しています。
大阪での仕事もあるので、時々は戻るものの、基本的には京都の知人宅に泊めさせてもらいながら京都の現場を拠点に動いているという日々を送っています。

いきおいで始めた2拠点生活ですが、こうして京都に腰を据えてみると、この思い付きは正しかったと思っています。今まで手掛けてきた昭和に建てられてた程度の”築古”物件であれば、経験の延長で十分に対応できます。

でも今回は、これまで扱ってきた古い家とは次元が違う歴史があり、文化があり、京都という土地と密接につながっている物件です。
京都の風土にどっぷり浸かり、より深く入り込みたいと直感的に思ったのです。

京町家設計塾に入門

京都は、大阪とまったく違う街です。
大阪はオープンな土地柄で、大阪を好きでさえあれば、よそ者も受け入れる大らかさがあります。腹の内が見えやすく、良く言えばフレンドリー、悪く言えば馴れ馴れしく厚かましい。

一方、京都は歴史が長く、文化も厚い分、懐に入りこむには時間がかかります。表向きは親切でも、核心には触れない。だからこそ、京都に馴染むためには「暮らすように滞在する」必要があると感じました。幸い、京都に友人がいたので、その人の家に身を寄せることができ、さらに、その友人のネットワークで、このような京町家のプロとも知り合える好機に恵まれました。

その方は「京町家の設計塾」を主宰されていて、ほとんどボランティアのような価格で開かれていると知り、迷わず入塾しました。
建築を学ぶ学生、現役の建築家、わたしのようなリフォーム会社の設計、職人が参加している専門的な場であり、実務者のための本格的な講義です。

9月開講のコースだったため1回目は逃しましたが、3月まで続く講座なので今からでも十分追いつけます。これも京都に“住んで”いたからこそ得られたご縁で、物件と同じタイミングでこういう学びの場に入れたのは、もう運としか言いようがありません。

塾で学ぶ内容は、京町家の歴史と具体的な工法です。実際の古い町家の現地調査の機会もあり、最高の学びの場となっています。
たとえば、伝統工法では金物はほぼ使わず、木材を継ぎ手で組み、木と木の摩擦で家を支えます。これは、基礎を鉄筋コンクリートでしっかり固め、構造体を金具で固定する現在の工法とは全く違う考え方です。こうしたことも、実際の町家を目で見ながら学びます。

また、こんなお話も聞きました。
京都市内から大きな活断層までの距離は離れているそうで、逆算すると、市内に達する震度は、せいぜい3~5程度(真偽はさておき!)。つまり、それぐらいの揺れに耐えられるように建てておけば大丈夫なんだと、笑って話しておられました!

伝統を残しつつ、現代的で快適な住まいに

また、土壁は時代遅れの古い素材ではなく、調湿・消臭・断熱性能に優れた壁材だと教わりました。
今回の工事で解体した際によくわかりましたが、確かに幕末以前の構造部分は古さのわりに傷んでいませんでした。一方の昭和の増築部分である柱や壁はシロアリ被害と湿気により、ひどく劣化していました。
「百年もつ家」と「二十年しかもたない家」の差を、見せつけられました。

とはいえ、施主はこの家の歴史保存を目的にしているわけではありません。
快適に暮らせる家にしたい、断熱も必要、設備も現代的にしたい。
それこそがリフォームの最重要ポイントだという点を見失ってはいけません。

それでも、できる限り本来の姿を損なわないように進めることが、この家に対する誠意だとの思いも捨てたくありません。伝統工法を支える無垢材などの自然素材はコストがかかりますし、職人の技術も必要になります。伝統と現代的な利便性を兼ね備えた家を予算内でどこまで実現するかの挑戦は続きます。

続く

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