京町家をリノベする【1】
わたしは今、京都の古い家のリフォームに、かかりきっています。
推定築年数、100年以上。図面は残っていません。
依頼主が育った家でしたが、近年は高齢のお母様が一人で暮らしておられました。しかし、段差の多い古い家での生活が限界に近づいてきたことから、大阪に住んでいた施主がリフォームして住み継ぐ決意をされました。
初めて現地調査に入ったのは、2年前。
家の中は家財道具でぎっしり詰まっているのに、家に関する図面も書類も何も残っていませんでした。
少なくとも一世紀は経過している家だと一目で分かるのですが、昭和40年代に大幅な増改築をしているため、パッと見ただけでは詳細が分からず、手探り状態でのスタートでした。
ご家族間の名義変更などの作業が終わって、ようやく工事をスタートしたのが1か月前。
まず昭和の増改築部分を解体し、百年前の本来の骨格が姿を現したとき、息をのみました。
伝統工法は、金物を使わない
現れた構造は、伝統工法。
地面に並ぶ自然石の上に、柱を乗せただけの基礎。金物は使わず、木の強さと屋根の重みで家全体を安定させる、日本古来の建て方です。
改築前に撮影した家の写真を見せてもらったところ、もともとは古民家によくある厨子二階(つしにかい)と呼ばれる、天井が低い中二階がある作りでした。虫籠窓(むしこまど)という縦格子の小窓が設けられているのが特徴です。
天井には丸太梁、壁は小舞竹(こまいたけ)と呼ばれる編み込んだ竹に、粘り気のある土を塗りこんだ本格的な土壁作り。
そんな伝統工法の家に50年前、2階部分を増築しています。押し入れの中に急勾配の階段を作り、天井の低い厨子二階部分を普通の天井高の2階にする工事、ほかには、坪庭を削って1階部分を増築していました。
驚いたのは、古い部分は土壁が所々崩れていた程度だったのに対し、昭和の増改築部分の方が劣化がひどくかなり傷んでいたことです。増築部の床は腐食して沈んでいました。プリント合板やフローリングを土壁の上からベシベシ上貼りして通気性が損なわれていたせいか、シロアリの被害にもあっていました。
それでも、家が大きな倒壊もせず持ってきたのは、地震が少ない京都という地の利があってのことだったかもしれません。
この家は、ただものじゃない
古い住宅をたくさん見てきましたが、この家は明らかに「ただものではない」と思いました。
歴史の重みを背負った佇まい、本物にしか醸し出せない風格がありました。
「こんな伝統的な家に、通常やるような量産型のリフォームをしてよいのだろうか…」
施主からは、古民家らしさを活かしてほしいといった要望は特になく、「対面キッチンにして、LDKを広く」「段差のないバリアフリーな家に」など、いたって一般的なリフォーム要望しかお持ちではありません。
それでも、私は悩みました。
せっかく、安っぽい昭和のリフォーム部分を剝ぎ取ったばかりなのに、またしても、せいぜい20~30年しか持たない、しょうもない令和のリフォームを施してよいものでしょうか?
本物の美しさを備えた人に、付け焼刃のような整形手術をするようなものです。
たとえ、零細企業の底辺中の底辺リフォームプランナーのわたしといえど、まがりなりにも建設業に携わる者として、職業倫理が疼きました。
しかも、わたしを含め、うちの職人に、京都の古民家を改築した経験者は皆無。
伝統的な建築の改修に関して、わたしたちは全くの素人であることを認めざるを得ない。
そんな我々に何ができるのか。
この家の良さをどうやって残すべきなのか。
指揮者のいないオーケストラが、ベートーヴェンの第九を演奏しなければいけないような状態です。
毎日、頭を抱える日々が続きました。
そんなとき、京都に住む友人の紹介で、京町屋の保存・再生を行っている特定非営利活動法人の理事長を紹介してもらいました。京都大学OBの建築家の一員であり、京都市とも太いパイプを持つ人です。
現場の住所を伝えただけで、その方は即座に言いました。
「そこは京都の火災を免れた地区だから、間違いなく幕末以前の家ですよ」
続く
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