なぜ日本人は新築の家を買いたがるのか【6】
今回は、戦後から現代に至る住宅政策の流れと、その中で私が注目している「団地」という住まいの形についてお話ししたいと思います。
国が住宅に介入しはじめた背景とは?
前回までは、民間主導で行われてきた住宅開発の偏りについて触れてきましたが、国(政府)も当然、住宅政策に介入してきた歴史があります。
その始まりは、明治時代。都市への人口集中により住宅不足が深刻化し、第一次世界大戦や世界大恐慌といった混乱期を経て、日本は急速に住宅の必要性に迫られました。
特に第二次世界大戦中は、軍需産業を支える労働者のために大量の住宅供給が求められ、軍主導で「安価で大量供給」が重視されました。しかし、敗戦によってこうした国家主導の住宅政策はGHQによって一度白紙に戻されます。
戦後の住宅政策──“仮の住まい”としての公営住宅
戦後は戦災で家を失った人々のために、1951年から本格的に「公営住宅」の建設が始まります。ここで面白いのが、建設省と厚生省という異なる視点を持つ省庁が共同で事業を進めた点です。
- 建設省:一般向けの住宅を供給しようとする
- 厚生省:困窮者のための“福祉住宅”を目指す
この立場の違いから、制度設計は複雑になりましたが、結果的には「支払い能力のある人」も入居できる形になり、想定よりも幅広い層が利用することに。
家賃が比較的安価だったため、将来的にマイホームを持つまでの“仮住まい”として公営住宅に住む中間層が増え、本来の低所得者向けという趣旨は徐々に薄れていきました。
公営住宅の縮小、そして「団地」の誕生
高度経済成長期に入り、次第に公営住宅の課題が浮き彫りになります。
- 都心の土地が足りなくなり、郊外にしか建てられない
- 入居条件の見直しがなされず、収入が上がった層は入居できない
- 財政負担の増大で自治体が建設を敬遠
結果として、公営住宅の数は徐々に減少していきました。
その代わりに登場してきたのが、団地(公団住宅)です。団地は政府系機関が出資し、都市部にも大量供給が可能な鉄筋コンクリート造の集合住宅。代表例は、1960年に着工された「千里ニュータウン(大阪)」で、当時の日本初の“西洋式間取り”を取り入れた革新的な住宅として話題を集めました。
かつての“あこがれの住まい”が、いま見直されている
団地はかつて「夢のマイホーム」とも言える存在で、入居希望者が殺到。抽選倍率が40倍を超えることもあったそうです。実際に、今までに私がリノベーションに携わった団地の多くは、当時の最先端を行く造りでした。
しかし、今ではその多くが築50年以上。老朽化が進んでおり、リノベーションの難易度も高いです。ただし、これは裏を返せば「工夫しがいのある素材」でもあるということ。
花見川団地に見る、“団地の多様性”
以前、NHKの『ドキュメント72時間』でも取り上げられた千葉・花見川団地。7000世帯が暮らすこの団地には、以下のような多様な暮らしが共存しています。
- 高齢夫婦が別々の部屋で暮らしつつ、週に2回“デート”する
- 若い女性がスタイリッシュにフルリノベして暮らす
- 外国人世帯が地域に根差して生活している
このように、団地は“高齢者の住まい”というイメージを超え、多様な世代やライフスタイルを受け入れる可能性を秘めています。
行政も動き出している──団地リノベーションプロジェクト
関西でも、ある大型団地群が過疎化に直面しており、若年層の呼び込みを目的としたリノベーションプロジェクトが立ち上がっています。
私もかつてコンペに参加しましたが、当時は建設業許可の範囲が足りず、残念ながら選ばれませんでした。現在では大規模工事も請け負えるようになりましたので、今後また同様のプロジェクトが再始動すれば、ぜひ参加したいと考えています。
「団地で暮らす」は、知恵ある選択
正直なところ、私自身も今後経済的に厳しい状況になった場合、「団地に移り住んで、快適に暮らす」という選択肢を視野に入れています。
団地は決して“負け組の住まい”ではありません。手頃な家賃、管理された環境、そしてDIY・リノベによって自分らしい暮らしが可能になる。高級マンションとはまた違う、知恵と工夫に満ちた住まい方ができる場所です。
現在の技術では、築50年を超える団地でも耐震補強などを行えば、80年〜100年は使えるとされています。
団地には、未来があるかも?
団地はかつての成功モデルであり、今なお多くのポテンシャルを秘めた住まいです。
高齢化や過疎化、住宅費高騰が問題となっている現代において、団地の再活用は「質の高い暮らしを無理なく実現する」有効な手段だと、私は考えています。
続く
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