なぜ日本人は新築の家を買いたがるのか【3】
シリーズの第3回目として、「日本の中古住宅市場が、なぜこれほど伸びないのか?」について掘り下げてみたいと思います。
中古住宅を購入しようとすると、価格はエリアや広さ、築年数でざっくりと決まってしまい、実際の建物の状態があまり考慮されない現状に、違和感を覚える人も少なくないでしょう。
その理由は、日本独自の制度や慣習にあります。
海外では当たり前の「インスペクション(住宅診断)」
欧米では住宅を売買する際、必ず「第三者による住宅診断(インスペクション)」が実施されます。売主でも買主でもなく、中立的な専門家が建物の状態を細かく調査し、その結果が価格の判断材料になります。
たとえば「配管の老朽化」「断熱性能」「耐震性」「窓の建て付け」などが診断され、その内容に応じて住宅の資産価値が上下するという仕組みです。
ところが日本では、こうした調査が義務づけられていません。希望すれば個人で依頼はできますが、不動産売買の場面で積極的に活用されているとは言い難く、物件価格の根拠として十分に機能していないのが現状です。
日本では「仲介しやすい価格」が基準になる
現在の日本の中古住宅市場では、建物の状態よりも、「売りやすさ」が価格決定の大きな要素となっています。不動産仲介会社がエリア・広さ・築年数といった一般的な条件を基に「これくらいなら売れるだろう」という感覚で価格を設定することが多いのです。
加えて、売主と買主の両方を自社で仲介できれば、手数料を二重に取れるという構造があるため、「囲い込み」が起きやすく、情報の透明性も損なわれています。
これでは、住宅の実質的な価値がきちんと評価される市場とは言えません。
なぜ中古マンションは売れるのか?
そんな中でも、中古マンション市場だけは例外的に活況を呈しています。特に都市部では売買が活発で、取引もスムーズに進みます。
その理由は、価格の標準化がしやすいためです。駅からの距離、専有面積、階数、築年数などで比較がしやすく、購入希望者にとっても選びやすい。
とはいえ、実際に中がどれほど汚れていようと、価格にはあまり反映されません。たとえば、前の住人がヘビースモーカーで部屋がヤニで黄ばんでいたとしても、価格はほとんど変わらず、リフォーム費用は購入者負担になります。
それでも「土地付きの戸建て住宅」よりも、マンションの方が取引されやすいのは、こうした価格の明確さと市場の成熟度が理由です。
戸建て住宅はなぜ売りにくいのか?
一方、戸建て住宅の中古市場は非常に厳しい状況にあります。その原因の一つが、住宅の「カスタマイズのしすぎ」です。
日本の住宅販売は「私だけの家を建てましょう」といったキャッチコピーが並ぶように、好みに応じて建てる注文住宅が主流です。その結果、外壁の色、窓の形、玄関ドアのデザインまで個性が強く、「前の人の色が強すぎる家」になってしまいます。
マンションのように画一的でない分、再販時には「他人の好み」が邪魔になって、買い手が見つかりにくくなってしまうのです。
資産価値を評価しない日本の住宅ローン
日本の中古住宅市場のもう一つの問題は、住宅ローンの仕組みにもあります。
本来、金融機関が融資する際には「建物そのものにどれだけの価値があるか?」が重要な判断基準になるべきです。ところが日本では、建物の価値は購入した瞬間がピークで、鍵を差し込んだその日からどんどん価値が下がっていくと考えられています。
そのため、銀行は建物の価値ではなく、「借り手の属性」だけを見て融資を行う傾向があります。たとえば、
- 大手企業勤務
- 公務員
- 安定した給与収入がある
といった人が圧倒的に有利なのです。
つまり、どれほど良質な中古住宅を購入しようとしても、建物自体の価値が融資の担保とされない限り、職業属性に頼った審査が続きます。
フリーランスや個人事業主には不利
住宅ローンの審査が「安定収入」を基準にしているため、フリーランスや自営業者など、収入に波がある人にとっては住宅取得のハードルが非常に高くなります。
年間で見れば高収入でも、「収入が安定していない」と判断されれば、ローンが通らない。これでは、住宅取得そのものが“特定の属性の人だけ”の特権になってしまいます。
本当に必要な「住宅の価値基準」とは?
ここまで見てきたように、日本では
- インスペクション制度の未整備
- 建物の資産価値が軽視される市場構造
- 融資が建物ではなく“人”を基準にしている
という3つの構造的な問題が、中古住宅市場の成熟を妨げています。
リフォームという仕事をしていると、「この家は手を入れれば十分住み続けられるのに」「資産価値があるはずなのに」と感じる物件に数多く出会います。そうした住宅が正当に評価され、もっと自由に選ばれ、流通するようになれば、日本の住まい方はもっと多様で柔軟なものになっていくはずです。
続く
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