リフォームからリミックスの時代へ

古くなった建物を直すことを『リフォーム』といいますが、祖父母の時代は「増築・改築」と言っていました。今では、『リノベーション』という、さらに踏み込んだ工事を意味する言葉も一般的になってきました。

先日、面白いセミナーに参加しました。今後の建築改修におけるヒントとなる内容でしたので、共有したいと思います。

主催は、文化と地域デザイン研究所代表の松本茂章氏。読売新聞の支局長を経て、文化芸術大学の教授を歴任、定年退職された現在も、書籍の出版、文化と地域デザインをテーマに各方面で活躍されています。

講師は、以前にもご紹介した、此花区を拠点に活躍されている、建築家ユニットNO ARCHITECTSの西山広志先生。

本のある工場

セミナーの会場は、鉄骨3階建の工場。こちらは、松本さんのお父様が残された元印刷所。
松本さんは、定年退職を機に関東から関西に戻り、亡きお父様から相続した昭和の元工場を、大量に所有している書籍・雑誌・資料類を保管する場所として改修をすることにされました。
改修を手掛けたのが、西山先生。

セミナー内容は、この印刷所を改修するに至った経緯と、設計におけるポイント。そして、今後のリノベーションや街づくりのありようについてでした。

設計と施主は議論を重ね、結果的に昭和の工場っぽさを残すことにしました。
正直言うと、一見しただけでは改修したとわからないほどです。特に外から見たら、大変失礼を承知で言いますが、よく見かける空きビルに見えます。(これから絶賛するので、お許しを。)

もう必要のないタイムカードとパンチャーですが、在りし日の印刷所の面影が感じられ、インテリアのアクセントにもなっています。

新しくなったアトリエ

もとは写植室と思われる部屋を、新しいワークスペースとして再生。アルミ製の配線ボックス、造作書棚、壁一面のマグネットシート、スポットライトを加えることで、今っぽいアトリエになっています。

デスクと椅子は、元々あったと思われるものを使っているのが、微笑ましい。天板だけ、白いメラミン化粧板に取り替えてリメイクしています。

建付けが悪くなって隙間風が入る窓廻りには、内窓を設置。ここでも古材や廃材を利用して、工夫が凝らされています。

この窓枠、お分かりになりますか?
実は、無垢のフローリングの廃材を使っているんです!フローリングの繋ぎ目が、開閉部分に。

懐かしいクルクル回す式の鍵。ガラスも、モールガラスで昭和風味です。

拡げたお手洗い

一番おもしろいと思ったのが、トイレを新しく入れるのに必要な奥行分だけ、前に飛び出させているところ。
しかも元の壁から合板をつぎ足しているだけ。斬新過ぎます!

扉と、錆びている取っ手も、再利用。

本置き場としてのみ使用するつもりで改修した元工場でしたが、結果的には松本さんが主催する文化サロンとして活用されるようになったのです。これも、良い改修が建築の可能性を拡げたことによります。

建築におけるリミックスとは

西山先生曰く、これからの建築は『リミックス』の時代だとおっしゃっていました。
過去の楽曲のリズムやフレーズを使って、新しい曲にアレンジする音楽における”Remix”と同じだと捉えているのです。
今回の工場改修のように、もとの骨組みと風合いを活かしたまま、取り換えと付け足しが必要な部分にだけ手を加える。
何を残し、何を取り除くのか。センスの良い作り手が差配することで、古い建築に新たな息吹が吹き込まれます。

リフォーム=修繕する、作り替える。
リノベーション=古いものを新たに刷新し、元の状態より向上させ、価値を高める。

建物の改修は、このいずれかでしたが、今後はさらに

リミックス=古いものと新しいもの、異素材など異なるものをミックスする。

使えるものはなるべく再利用して、廃棄物を減らす。
今ある資源を大切にし、未来に持続させる。
こうしてリミックスされた建物は、また新しく活用されていく。
今まさに問われている、「多様性」と「サステナビリティ」とも通ずる価値観です。

それと同時に、古いものを新しいものに差し替えるだけの通常のリフォームと異なり、リノベーションやリミックスの作り手には、建築・インテリアの知識、文化と歴史の造詣、国内・海外を含めた環境や社会へのビジョンが必要です。これからの建築に携わる人材には、さらに高度なインテリジェンスが求められる時代が到来したと思います。