今回は、私の一生の糧となったお客様とのお話です。

一昨年のちょうど今頃、私はキャリアで最も規模も金額も大きな工事を請け負っていました。
築40年の木造2階建の家のリノベーション。その家は、娘のMさんと姉のBさんが成人まで育った実家です。

大人になった姉妹は実家から徒歩5分圏内にある同じマンションの別住戸に住んでいましたが、ご飯が冷めない距離で暮らす3世帯は、毎日この家にお母様の美味しい夕食を食べに集まる仲良しファミリーです。

しかし、数年前にお父様が亡くなられてからは、お母様のRさんが一人で住んでいました。
お母様の一人暮らしには、この家は広すぎて寒く、膝が痛くて階段の昇り降りも辛くなってきていました。しかも、新築時から一度もリフォームしておらず、これからここに住み続けるのは心配だと思っていたところ、次女のMさんも、二人の娘さんが中学受験を控えている上、多忙な夫のTさんが自宅で仕事をするのに、3LDKのマンションは手狭だと感じていました。

そこで、次女のMさん一家がご両親の一戸建てに住み、お母様のRさんが、Mさんのマンションに住むという、親娘の住まいチェンジ案が持ち上がり、リフォームすることになりました。

Mさん夫婦は、大手リフォーム会社で工事することをほぼ決めていたのですが、セカンドオピニオンのつもりで私に相談され、いくつかプランをご提案をしたところ、とても気に入ってくださり、当社で工事をしていただくことになりました。

耐震工事、断熱工事、外壁塗装、屋根葺き替え工事、エクステリア、内装、カーテン・家具のコーディネートまで、家中の全てをお任せいただきました。しかも、お母様の家、お姉さまのBさんの家と、ご家族3世帯のリノベーションを全て担当させて頂きました。

客観的に考えて、このようなビッグプロジェクトは、大工事に慣れている大手リフォーム会社に依頼するのが自然です。私に好印象を持ってくださったとしても、トラブルがあった場合も、大手なら補償がしっかりしているので、そちらに任せる方が安心だと思うのが普通です。

ところが、Mさん一家は大手を蹴って、当社を選んでくださいました。
私に賭けてくださったのです。

そこからの約4ヶ月に及ぶ工事期間中、経験したことがないようなプレッシャーのかかる日々を過ごしました。明らかに私のキャパを遥かに超える仕事でした。大手企業のようなチーム体制もなく、アシスタントもおらず、たった一人で設計と現場監督を兼務し、毎日現場に張り付きました。この時期、よくハゲなかったなと我ながら思います。

不運にも見舞われました。メインで入ってもらっていた大工がダブルブッキングを理由に工事途中で抜けた上、サブの大工までが緊急入院するという事態になりました。お手上げ状態でしたが、ピンチヒッターに腕の良い大工を見つけることができたのが不幸中の幸でした。
それでも3ヶ月で完工する予定が、1ヶ月延長することは避けようがありませんでした。

当社に工事を発注することに、初めは懐疑的だったご家族を説得してまで、私に賭けてくれたMさんの面目を潰したようなもの。もう何をどう弁解しても許してもらえないと、顔も上げられなかった私に、Mさんはこう言いました。

「こまちゃん、信用してるから。絶対、良い家にしてね。」

規模も範囲も大きい工事。工期以外にも、やり取りを交わす中で、何度も議論する機会がありました。叱られもしました。こちらが言い返したこともありました。
それでも、毎週欠かさず打ち合わせを重ねました。

夫と娘さんのための快適な住まいを、そしてご自分のこだわりを込めた家を実現するため、Mさんと私はとことん向き合いました。もはや、戦友のような間柄です。

リノベーションはあくまでも住む人が主役だと思っています。
当たり前の意見のようですが、西海岸風とか、インダストリアル系など、最近は流行りのインテリアイメージの施工事例ばかりのリノベ会社がたくさんあります。

西海岸風が心から好きな人なら良いですが、果たして本当にこのスタイルがそれほど多くの人から好まれているのでしょうか?
私には、甚だ疑問です。デザイナーと会社のコンセプトが、顧客の要望よりも先行しているとしか思えません。

本来、家は10軒あれば10軒とも違うはず。ヨーロッパ風、アジアン風、和風、色々なインテリアの好みとライフスタイルがあるはずです。

「こだわりも好みも特にないよ」と言っている人にも、必ず何かしらのこだわりと、育ってきた過程で培ってきた住まい方があるものです。そのような、個々のお客様の潜在的ニーズを掘り起こすのが私は大好き、この仕事の一番の醍醐味だと思っています。

この掘り起こし作業は、神経を使うし、忍耐力も必要です。でも、この共同作業なくしては良いリフォーム、リノベーションはありえません。工事の規模が大きかろうが、小さかろうが、同じです。

Mさんとは、工事期間が長い上に、その頃はまだ予防方法もわからなかったコロナ第一波の最中であり、トラブルも続出したので、四つに組むべき手が離れていてもおかしくなかったのですが、夢の家を完成させるため、最後まで二人三脚でゴールすることができました。

お母様のRさん、お姉様のBさんの住まいも、同じように一緒に完成をイメージして工事しました。家族中に喜んでいただけ、本当に報われた気持ちでした。

完工後、お母様のRさんから、工事のお礼にとご家族が大切にしていたバカラのグラスをプレゼントしていただきました。


お母様からいただいた、家族に伝わる大切なバカラのグラス。

MさんとBさんからは、ネスプレッソのコーヒーメーカーをいただきました。打ち合わせの度に入れていただいていたコーヒーを私が美味しそうに飲んでいたとのことで、これをプレゼントしようと初めから計画されていたそうです。

バカラのグラスとネスプレッソは、私の宝物です。でも、それだけではありません。困難な工事をお客様と共にやり遂げた経験、そして「こんな快適で、素敵な家に暮らしているのが夢のよう」と言ってくださる一家の言葉です。

今回は、自慢話になってしまいましたね。苦労の絶えない仕事ゆえ、たまには良い目に会うこともあるというお話です。お許しあれ!


毎朝、このネスプレッソで美味しいコーヒーを淹れています。

この物件は施工事例でご覧いただけます♪

https://lightupreform.co.jp/case/case-1361/