この工事、お値段いくら?

今回は、リフォーム工事の費用についてお話します。

まずは、こんなケース。
下の画像。丸くカーブしている開口部は、通称「アール開口」と呼ぶ、上部が半円形になった出入り口のスタイルのことです。


※海外のフォーシーズンズホテルのサイトからの画像です

この工事には、いくらぐらい費用がかかると思いますか?

ドアの取替え工事の場合は、どこの工事店でも、商品代+取り付け費◯◯円など、単価が設定されています。

ところが、アール開口の場合、丸いカーブをどれぐらいの角度に設定するかの正解はなく、お客様の要望するイメージを反映させたり、型枠をまず制作してから開口部を作ったり、さらに現場の状況も加味した上で施工する必要があったりで、とにかく、倍以上の手間と時間がかかります。

つまり、材料価格をベースとして計算できる工事ではなく、ひとえに職人さんの腕とセンスによる工事なので、一概に、
「はい、一個につき1000円です」とは、言えないのです。


北浜の芝川ビル

価格がわかりにくい電気工事

電気工事も、お客様に価格を理解してもらいにくい工事項目です。

「え?コンセントを2〜3ヶ所追加しただけで、こんなにかかるの?!」
「シーリングライトから、ダウンライトに変えるぐらい、大した工事じゃないんじゃない?」
「スイッチプレートなんて、ホームセンターで数十円で売ってるんだから、自分で取り替えられるぐらいの簡単な工事でしょう?」

このようなことを言われるたび、正直、頭を抱えたくなります。

リフォームの電気工事は、実は非常に大変です。
なぜ大変か。リフォームの場合、当たり前ですが対象は中古物件がほとんどです。築年数20年以上前の物件は、現在のように電気に依存したライフスタイルになることを想定して建てられていないわけです。

3LDKのマンションで例えると、各部屋に一個づつコンセントとテレビジャックがあれば良い方で、さらに築年数が古い物件の場合、家の中でテレビジャックがリビングにひとつしかないことも多々あります。

照明器具に関しても、部屋の真ん中に引掛シーリングが1ヶ所あるだけで、そこに蛍光灯などの器具を取り付けるスタイルが主流です。ダウンライトは、玄関とトイレなど部分的に使われている物件はあっても、これを主照明にした住宅はほとんどありません。

それが今では、ホットクックなどの調理家電、ルンバ用のコンセント、スマホ、PC用の電源、USBやら、LANやら、Wi-Fiやら、ルーターやら、オーディオやら、大量の電気系統が必要です。

どこの家庭も、リフォーム前は、延長コードと3口差し込みタップを駆使して電源を確保していたため、コード類のごちゃごちゃに散々悩まされてきているので、リフォームするとなると、あそこにもここにもコンセントを増設してくれ〜っとなる気持ちはわからなくもありません。

「コンセントの位置も、床に近い位置だけでなく、デスクやテーブルの天板より上の位置など、家具の配置とライフスタイルに応じた場所に取り付けてほしい」
「照明も、シーリングじゃなくて、かっこよくて掃除も楽なダウンライトにして、さらにシーンごとに調光でムードが変えられるようにしたい」
「スイッチプレートも、ブラックでおしゃれなスクエア型がいい」

ここ10年で、最もリフォームのニーズが増えているのが、実は電気工事ではないかと思います。新築工事の場合は、建設初期から配線作業が出来るので比較的楽ですが、リフォームの場合は、既存の躯体のまま施工しなければならないため、配線仕込みも、ダウンライトの器具配線も手間がかかります。高所や床下に潜っての作業もあります。

電気の配線工事は、一式、もしくは住宅の間取りの平米数でざっくり金額を算出します。コンセント1カ所につきいくらなんて価格の出し方はできません。1カ所増設するのも、2か所増設するのも、労力がかわらないからです。

ところが、お客様からは、ハードな肉体労働を伴う工事だと認知されていないので、コンセントやスイッチプレートなどの電設資材の価格だけで判断して、なぜこんなに費用がかかるのか理解してもらえません。


大好きな北浜の生駒ビルヂング

リフォームの見積もりには、目に見えない技術や提案力のコストも入っています

リフォーム会社は、全ての工事に単価を設定していますが、これは平均的な工事をベースにしています。古くなったものを新しい商品に入れ替えるだけの、シンプルな工事を想定しています。

分かりやすく例えますと、壁一面の壁紙を貼りかえる工事金額が、材料と施工費込で、仮に20,000円とします。
平均的な貼替工事を想定した見積り金額です。

ところが、同じく一面の壁紙の貼替でも、3種類の違う壁紙を使って、左右の貼り分け部分を三日月のような形にカットして貼ってほしいと依頼されたとします。
これを、一面に同じ壁紙を貼るのと同じ20,000円で請け負えるでしょうか?

このような、即興性が求められる工事については、「造作工事一式」「電気配線工事一式」などと表記し、オーソドックスな工事料金に、デザイン料、技術料、提案料などの付加価値コストを加えた価格設定にするのは当然のことです。

昨今のように、こだわりが強く、ネットを見て海外のインテリア製品の情報にも精通している顧客のためのカスタムメイドの工事に対応するとなると、新築◯○◯◯さんや、設計・デザイン事務所のように、「建築工事一式」で、細かい項目は記載せずに、「木工事」とか「設備工事」など大きい項目だけ明記した見積りにした方が、むしろわかりやすいのではないかと思ったりします。

ちきりん著『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』

以前、このブログでご紹介した本、社会派ブロガーのちきりん著『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』は、タイトル通り、リノベーション工事の会社選びから引き渡しまで、徹底的に顧客目線で解説している本です。

https://lightupreform.co.jp/2019/07/15/chikirin/

この本の中でちきりんさんは、
《費用総額を決めるのは業者ではなく自分だ》と書いています。
ここから、少し引用します。

《「高いリノベ会社」と「安いリノベ会社」があるのではなく、「高い代金を払ってでも実現したい住まいがある客」と「そこまでお金をかけなくてもいいと考えている客(もしくはかけられない客)」がいるだけです。》

《管理部門やサポート部門がしっかりしていることに付加価値を感じ、それに対価を払ってもいいと思う客と、そこに価値を感じない客がいるだけです。》

日本中のリフォーム予定の人が、ちきりんさんのこの本を読んでいれば、こんなにミスマッチで苦労しないのでしょうが‥。
お客様も悪気はなく、ただただ建築工事に関する知識がないために起こる、ボタンのかけ違いであるケースが多いとも理解しています。

InstagramなどのSNSで、手軽に情報が収集出来るようになったスピードに、目に見えないサービスコストに関するリテラシーが追いついていない人が多いのが原因です。
リフォーム会社側にも、責任があります。受注件数ばかりを追ってきた結果、お客様を啓蒙するような活動はあまりしてこなかったからです。

仕上がりへの期待値が高いお客様には、リフォームする側も、知識と経験の引き出しが多いアドバイザーと、スキルの高い職人が対応する必要があります。
設計図、パース、家具の詳細図、電気図面等の資料も作成しなければ行けないでしょう。さらに、現場での打ち合わせも頻繁に必要です。こうした作業と時間のコストも当然タダではありません。
アドバイザーと職人は、より良いご提案と工事ができるよう、専門知識を身につけ、経験を積んだプロです。この人達への人件費も含んでいます。

マクドナルドのように、スマイル=ゼロ円というわけにはいきません。
いつでも、どこでも、同じ味、同じ値段のサービスを受けたい方には、そのような工事店が存在しています。(マクドナルドを否定しているわけでは、もちろんありません。)特に、好みもこだわりもなく、市場で一番出回っていて使いやすくコストも安いもので十分だという人には、マクド式の工事店がぴったりです。

逆に、より高い提案力と専門性を求めるお客様は、有名な建築事務所に依頼するでしょう。高額な費用を払ってでも、自分たちのためだけに考案された誰の家とも違うオリジナリティあるデザインを購入しているのです。

このように、コストというものは、見えない部分にこそかかっているのだという共通認識を持つ必要があります。


私にとっての『摩天楼はバラ色に』。癒しスポット、中之島。

今年は、大きな転換点の年

終息しそうでしないCOVID-19、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した原油高、さらに長年続いていた円高が約30年ぶりに150円を超えようとしています。このような世相の中、建設業も影響を大きく受けています。じわじわ上がっていく資材の値段、輸送費、車移動のコスト増に伴う人件費増、厳格化していくアスベストや廃棄物の取り扱い。物価高は避けられません。
しかし、悪いことばかりではありません。
物とサービスの価値について、より慎重に選択する目を養うチャンスでもあります。あまりにも長く続いたデフレ経済の中、安い・早いが最良というサービス業の価値観は、顧客側も工事側も更新していく必要があります。

お客様にも見ていただく機会があるホームページで、このような話題に触れるのはどうかと思わなくもないのですが、お金を払う側の立場が一方的に強いのは、健全なビジネスとは言えません。施主と事業者の関係は対等であってこそ、良い住まいが完成します。このような思いから、今回はこのテーマを掘り下げてみました。今後リフォームや新築をされる際に、一役となるかもしれません。

※画像は、ブログ記事と何の関係もない、北浜のレトロビルと中之島を撮影したものです。疲れると、癒されにこの辺りに出没します。
北浜から中之島にかけてのエリアは、東京、京都にも負けない、いや、日本一美しい街並みなのでは?と、個人的には思っています。